マルニ木工 職人 竹次氏インタビュー
JAPANTWO(JP2):若くしてHIROSHIMAの磨きの最終工程に抜擢されたようですが、どういった経歴で責任あるポジションを担当することになったのですか?
竹次氏:もともと最終工程をやっていた方が、急に職を離れることになり、私がやらなければいけなくなりました。自分が予想していた時よりもだいぶ早い段階でこのポジションを担当することになりました。
JP2:最初はどのようなお気持ちで作業をなさっていたのですか?
竹次氏:とにかく難しいなと思いました。一日に何本も磨かなければならない。でもまだ自分自身も作業に慣れておらず、そういった状態の中で色々悩みながら取り組んでいました。ただ磨くという作業の中で、品質を落とさないよう自分なりに気をつけて磨いていたのがよかったようで、結果すぐに習得していくことができました。
JP2:HIROSHIMAの最終工程でどこが一番難しいと感じますか?
竹次氏:HIROSHIMAのデザイナーである深澤直人さんが、形状のほとんどの部分に対して細かく指示を出して下さっていたのですが、ところどころあいまいな部分がありました。そういった部分は担当者によって形状のバラつきがでてきてしまうので、その部分を均一にするところが難しかったです。深澤さんは細部にまでとてもこだわられる方なので、完成したものをお見せして、深澤さんはじめ開発部の方からもっとこうして欲しいという要望がきて、それに対して応えられるように少しずつ少しずつ改良していきました。また、機械で削りだすと、どうしても冷たいイスになってしまうので、必ず1か所1か所手で磨いて温かみのあるイスに仕上がるように意識しています。
JP2:深澤さんから要望がきた時には、どのように感じましたか?
竹次氏:最初は、えーってなりました。またですかって。しかし、やはり要望には応えていきたいので、一気に改良するのは難しいですが、少しずつ自分の中で変えていきながら深澤さんの思い描いている形になるように心がけました。
JP2:大変な分、その中には楽しさもあるのですか?
竹次氏:それはもちろん楽しいです。機械加工は刃物が当たった状態のままになるので、削られた木の表面が多少でこぼこしていて、印象でいうと若干冷たい感じがするんですね。そこにちょっとずつ丸みをつけていって、温かいというか、自然なというかそういう形にしていくことが自分中で楽しいです。
JP2:HIROSHIMAはマルニ木工を代表する家具ですが、その最終加工という大役を任されているに当たり、竹次さんご自身でなにか常に気持ちにあることなどありますか?
竹次氏:見て頂ければわかると思うのですが、HIROSHIMAは隠れている部分がほとんどありません。ほとんどすべての部分を見ることができるので、より丁寧に仕事をすること、これは常に心がけています。ごまかしがきかないからこそ、一脚一脚全力で作っています。
JP2:作業をしている時は、使い手側であるお客様のことを意識したりしていますか?
竹次氏:そうですね。僕たち、作っている側にとっては何百脚中の1脚でも、お客様にとっては4脚中1脚だったり、1脚中の1脚だったりする。だから丁寧に作る。もう本当にこれだけです。
JP2:磨きの極意はありますか?
竹次氏:触る。この一言に尽きます。触って違和感のあるところは違和感がなくなるまで磨いていきます。光を当ててみて、表面がでこぼこしているところがないどうかも確認します。とにかく触り続ける。そして違和感が少しでもあれば磨く、そしてまた触る。納得いく仕上がりになるまでこれを繰り返します。
JP2:個体によって一脚一脚触った感触は違ってきますか?
竹次氏:違いますね。木なので。違うけれどもできるだけ同じになるように磨きます。また作業をする人が変わっても、木って変わってきてしまうものなので、最後に私が見て同じ製品になるように磨きます。
JP2:まだHIROSHIMAを知らない方達にHIROSHIMAのどの部分を一番アピールしますか?
竹次氏:HIROSHIMAは触ってもらえれば、言葉で説明しなくとも良さがしっかり伝わると思います。イスを触る。そしてイスに座る。そしてまた触る。お客様にはそれをしてほしいです。じつはHIROSHIMAは私自身も本当に欲しいと思った製品です。私は作り手なので、製品を作りますが、座る機会はほとんどありませんでした。ただある時、木目があまり良くないということで工場に戻ってきてしまったHIROSHIMAを休憩室に置いて座ってみたんです。そうしたら、これけっこう良いなって思いまして。 ちょっとびっくりしたのを覚えています。こんなイスだったのかって。その時に、やっぱりイスを作るときには座ってみないとだめだなと思いました。
JP2:世界からマルニ木工の製品が認められている理由はなんだと思いますか?
竹次氏:工程1つ1つにおける丁寧な作業だと思います。例えば、穴を一つ開ける作業も正確に測って開けている。そういったごくごく当たり前の作業をしっかりとすること。そうすれば良い家具というのは作れます。これぐらいでいいや、と思うことはないですし、納得がいかなければとことんその家具、イスに向き合う。そういう事の積み重ねが、マルニ木工の家具を生み出しているのであり、様々な方から認められている理由だと思います。
JP2:HIROSHIMAがマルニ木工のターニングポイントになったと思いますか?
竹次氏:そう思います。タイミングが良かったとか、そういうものが重なったということもあると思いますが、HIROSHIMAは今までになかったイスだと思うので。最初はこんな手間がかかるイスを誰が買うのかなと思っていたりもしていました。 はじめの頃は1脚作るのに磨きの最終工程だけで1時間かかっていました。1日8時間だとしても頑張っても8脚しか作れない。今は慣れてきたというのと、工程を分けたりしているので1日20脚、30脚と磨けるようになりました。1時間かかっていた時よりも確実に質も上がっているので今考えるとすごく進歩したなと思います。
JP2:HIROSHIMAを外で見られた時はどのようなお気持ちになりますか?
竹次氏:どきどきします。最近工場見学が多くなってきて自分の目の前でHIROSHIMAに触られることがあるのですが、その時に触った方たちの反応を見るのが凄く楽しいです。喜んでくれている姿が間近で見られるので工場見学もいいですね。 いろいろな方の反応を見るのも大事だなと思いますし、これからも丁寧に磨いていかないといけないなと思う瞬間です。
株式会社マルニ木工
Websitehttp://www.maruni.com/jp/