ユナイテッドアローズ クリエイティヴディレクター 鴨志田康人 氏 インタビュー
ユナイテッドアローズの立ち上げのメンバーの一人である鴨志田康人氏。彼のセンスは海外からも一目置かれており、2007年には約20年以上のバイヤー経験を存分に生かした自身のドレスブランド「Camoshita」を立ち上げた。現在はユナイテッドアローズ全体をディレクションするクリエイティヴディレクター兼メンズディレクターである鴨志田氏にユナイテッドアローズについてはもちろん、セレクトショップ、日本のファッションについて伺った。
始めは店舗販売とバイヤーの掛け持
JAPANTWO(JP2):バイヤーになられた経緯を教えて下さい。
鴨志田康人氏 (鴨志田):ユナイテッドアローズを立ち上げる以前のことですが、大学を卒業した後ビームスで店舗スタッフとして働き始めました。販売も楽しかったのですが物が人一倍好きだったこともあり、物の調達というものに興味を持ち始めました。そして、少しずつ海外出張に同行させてもらったり、日本の問屋さんのところへ連れて行ってもらったりし始めました。そのため、始めの頃は店舗販売とバイヤーの掛け持ちでした。ユナイテッドアローズを立ち上げてからは始めからバイヤーとして働き、現在はユナイテッドアローズのクリエイティヴディレクターでメンズのディレクターもしております
主観がお店の顔になっていく
JAPANTWO(JP2):買い付けに行かれる際、ユナイテッドアローズらしさを意識されていますか?
鴨志田:正直、「ユナイテッドアローズらしさ」ということを考えて買い付けには行かないです。私が買い付けに行くという事は、私の主観というのが必ず入ってしまいます。そして、その主観がお店の顔になっていくんです。それが結果として他社様との違いでもあり「ユナイテッドアローズらしさ」になっていくのでしょう。もちろんターゲットとしている事が違ったり、マーケットの違い、立地の違いなどでお客様の違いは多少あると思います。しかし、同条件で考えた場合、主観の違いが大きな違いだと思います。弊社が他社様と求めてることが同じであってもお店によって違いが出るという事は、そこに主観が入っていることが1番大きいと思います。
メンズはイタリアが一番強い
JP2:日本でセレクトショップという業態が支持されている理由についてどう捉えていらっしゃいますか?
鴨志田:私は主にメンズのドレス部門のブランドを担っていますので、展示会、生産国として最もレベルが高いイタリアに必然的に買い付けに行きます。レディースの場合はパリやニューヨークだったりと各都市にバラついていて、お店やバイヤーの嗜好に合わせて買い付けに行くことも多いのですが、メンズのドレスとなるとイタリアが中心になります。イタリアには工場も多いですし、デザイナーや職人も多いという事とも関連していると思います。しかし、カジュアルとなると違ってきます。アメリカやフランス、ロンドン、もちろんイタリアにもカジュアルブランドはあります。けれども、ドレスとなるとクオリティーや歴史的な部分ではイタリアが一番強いと思います。
常に変化させたい。もっと進化させたい。
JP2:日本でセレクトショップという業態が支持されている理由についてどう捉えていらっしゃいますか?
鴨志田: 海外にはまだ多店舗展開されたセレクトショップというのはあまり存在しません。だいたい1店舗のみで、オーナーのお店というのがほとんどです。
日本人のお客様の特性というのは、ワンブランドに飽き足らない方が多いということでしょう。自分で色々探して自分で組み合わせて個性を出していく。だから、セレクトショップが流行ったのだと私は考えます。そして、そのようなお客様の要望に応えられるようなったのが、弊社が成長した理由だと思います。
海外の方は日本人のように「自分自身で洋服を探すことを楽しむ」という方が少ないと思います。その代わり、海外の方、特にヨーロッパの方は「このお店」と決めたらそこのお店しか見ない人が多いです。そして、そのお店にずっと通い続けるんです。国や都市によっては親子代々続いてそのお店へ行かれます。もちろん、それには階級社会・歴史的・文化的な違いなどがありますから、日本と違うのは当然です。しかし、だからこそ海外では古いお店が今でも守られ続けているのです。けれども、我々からすればいつ訪れても良くも悪くも変わらないんです。物足らなく感じてしまうんです。我々は欲張りなので、常に変化させたいもっと進化させたいと思うため、日本でセレクトショップが流行ったのでしょうね。
服の組み合わせが重要
JP2:セレクトショップにとって重要なこととは何でしょうか?
鴨志田:当たり前のことですが「セレクト」そのものです。同じブランドでも買い方によってそのブランドが異なって見えてきます。それから、ブランドらしさというのが出てくるのです。そこから、そのお店らしい色が出てきます。そして、さらにそこに「主観」が入ります。また、物そのものというよりも、スタイリングも大切なことです。どのブランドの服を着るのかではなく、服の組み合わせが重要なんです。「これとこれを組み合わせて着ることで、あなたがが一番輝きますよ」ということができるのがセレクトショップの醍醐味であり大切な事です。
我々はいつもファッションについて学んでいます
JP2:世界的に日本のファッションは注目されていますが、日本のファッションについてどうお考えですか?
鴨志田:現在でも海外の方から日本のファッション、日本的な独特な着こなしなど、とても注目されています。洋服をこのようにポジティブに着こなしエネルギッシュなファッションの国はそうないと思います。しかし、洋服文化の歴史が長いヨーロッパに比べると未熟だと感じるところも多々あります。だからこそ、我々はいつも彼らから洋服についてファッションについて学んでいます。
インポートの商品が日本へ多く入ってくるようになり、それが、マーケットで受け入れられるようになってまだ50年程しか経っていませんが、感性や美意識、ファッションの楽しみ方などは日本独自ののものに変わってきたなと思います。日本独自のものというのは私も感じることなので、海外の方にはもっと感じることでしょう。
JP2:日本のファッション業界やマーケットについてはいかがでしょうか?
鴨志田:相変わらず日本のファッションマーケットは元気です。しかし、ラグジュアリーブランドが衰退してきたと言えるでしょう。粗食なところといいますか金箔が剥がれてきたという感じです。本質的なラグジュアリー、生活において本当に大切なもの・こととは何だろうということが問われています。それは、東日本大震災以降、拍車がかかったと感じます。
これは、すごく良い事だと思います。そのため、使い捨てのイメージが強いファストファッションというのも、今後の日本には根付かないのではと思います。
私たちからすれば、しっかりした質の良いものをお客様に提供して、そして、それを長く使い続けてくださいと言えるようになる時代になってきたと感じます。
ユナイテッドアローズはまだ生まれてから20日
JP2:創業者メンバーとして、ユナイテッドアローズの理念を作り上げてこられたと思いますが、「THE STANDARDS OF JAPANESE LIFESTYLE」という理念・目標について鴨志田さんご自身はどのように捉えていらっしゃいますか?また、創業当時に比べ目標に近づいているのでしょうか?
鴨志田:創業以来掲げている目標ですが、未だに達成できていないと思います。「THE STANDARDS OF JAPANESE LIFESTYLE」を目指すという事で20年やってきていますが、そんな簡単にスタンダードというものはできないです。これは100年や200年と時間がかることだと思います。その年月で考えると、生まれてからまだ20日くらいしか経っていなと思っています。我々はまだ赤ちゃんです。しかし、日本人の美意識や感性に見合ったものを我々が提供して、そして、それが日本独自のものとして定着しスタンダードになるという確信があります。進化できれば、というそういう思いから掲げている目標です。
海外の読者へメッセージ
JP2:最後に読者へのメッセージをお願いします。
鴨志田:日本の面白さというのは島国だからこそなんです。だからこそ、クラフツマン・職人気質というのが今でも残っているのだと思います。日本ならではのこだわりやクオリティーの高さというのが現在の日本にもまだ残っています。グローバリゼーションが騒がれている今、これから大事にしていかなければならないところというのは、ローカルの部分だと思っています。このローカリゼーションを大事にしていくことが、結果的に世界へアピールできる日本の魅力になっていくんです。海外の方に伝えたいことは、ファッションもそうですが、それだけではなく色々な日本独自の文化の背景には日本のクラフツマン・日本人気質というのがあるんです。今また、日本国内でも日本文化というのが見直されています。是非、そこも考えながら日本のファッション、日本という国を見に来てもらいたいです。
鴨志田康人 ユナイテッドアローズ クリエイティヴディレクター
1957年生まれ。多摩美術大学卒業後、株式会社ビームスに入社。販売、メンズクロージングの企画、バイイングを経験。1989年に退社し、ユナイテッドアローズの創業に参画する。2007年には自身のブランド「Camoshita」を立ち上げた。現在、クリエイティヴディレクターとして、ユナイテッドアローズのバイイングから商品企画、店舗内装監修まで幅広い役割を担っている。
Website http://www.united-arrows.jp
Photo by Yuuki Honda